食物繊維は「ヒトの消化酵素で消化されない食品中の難消化性成分の総体」とされ、大きく不溶性食物繊維と水溶性食物繊維に分類することができる。消化されないために不要と考えられていたが、現在では重要な働きを持つことが明らかになり、五大栄養素と同様に大切な成分として、第６の栄養素と呼ばれている。
日本食品標準成分表の改定（2020年版、八訂）では、それまで分析方法の問題で測定できなかった低分子量（重合度3から9）の難消化性炭水化物も食物繊維に含めるとされた ^※01 日本食品標準成分表2020年版（八訂） 炭水化物成分表編 2020年12月 。水溶性食物繊維には、ペクチン、アルギン酸、グルコマンナン、イヌリンなどが含まれ、不溶性食物繊維には、セルロース、ヘミセルロース、リグニン、キチンなどが含まれる。
　
水溶性食物繊維は、コレステロールを原料とする胆汁酸を絡めとって排泄を促し、生体内のコレステロール貯蔵を減少させることによって、血中LDLを低下させる ^※02 McRorie JW, et al. Understanding the physics of functional fibers in the gastrointestinal tract: an evidence-based approach to resolving enduring misconceptions about insoluble and soluble fiber. J Acad Nutr Diet. 117(2):251-264, (2017) ^※03 Hartley L, et al. Dietary fibre for the primary prevention of cardiovascular disease. Cochrane Database Syst Rev. 7; (1) (2016) 。また、食後の胃の内容物の粘度を増加させることにより消化・吸収を遅延させ、さらには、食欲を抑え、インシュリンの生産を増加させる ^※04 Tessari P & Lante A. A multifunctional bread rich in beta glucans and low in starch improves control in type 2 diabetes: a controlled trial. Nutrients. 17;9(3):297, 2017. 。
　
不溶性食物繊維は、腸粘膜を刺激し粘液の分泌を促すとともに、便中の保水性を高め便通を促す ^※05 Erdogan A, et al. Randomised clinical trial: mixed soluble/insoluble fibre vs. psyllium for chronic constipation. Aliment Pharmacol Ther. 44 (1): 35-44, (2016) 。

また、食物繊維はヒトの消化酵素によって直接分解を受けないため、栄養素としては意味がないと考えられていたが、腸内細菌を介して健康に重要な役割を担っていることがわかってきた。大腸内の腸内細菌は食物繊維を利用して、短鎖脂肪酸などの有用な物質を生産する。短鎖脂肪酸は、腸の健康やシグナル伝達に重要な役割を果たしている ^※06 Shimizu H, Ohue-Kitano R, and Kimura I. Regulation of host energy metabolism by gut microbiota-derived short-chain fatty acids, Glycative Stress Res. 6, 181-191. (2019) ^※07Canfora EE, Jocken JW, Blaak EE. Short-chain fatty acids in control of body weight and insulin sensitivity. Nat Rev Endocrinol. (10): 577-91. (2015)。これらの食物繊維を利用する種類の腸内細菌、いわゆる善玉菌の発育を促すプレバイオティクスとして働き、腸内を健康に保つはたらきもある。
　
日本における食物繊維の1日当たり目標摂取量は、男性21g、女性18gである ^※08 日本食品標準成分表2020年版（八訂） 炭水化物成分表編 2020年12月 。